アトリエヨウコ

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りしり_ R° 16.5

 

...これでいい

 

完成した...

 

かぎ針編みの手紡ぎ糸でのポンチョ

 

取り留めのない会話の中でさりげなくあなたの好みの丈などを聴いたが...

 

あなたはうたがうこともなく"画家さんにピッタリ!完成が愉しみだね"と...

 

そしてさらには...

 

訪ねた旅先でスケッチした...

 

旅する絵描きのスケッチブック

 

本土最南端から描き続け...

  

そして最後のページは

 

本土最北端の街からうかがえる

 

あなたが心底愛している

 

"amour éternel-永遠の恋人-"

 

曇り空の公務から明けた景色

 

まさにあなたの写真作品そのものだった

 

うれしい反面...

 

互いに複雑な想いも抱えていた

 

それはすなわち

 

わたしが次なる旅路へ向かう案内でもあった

 

そのことは互いに口にはせず...

  

わたしはリュックから画材やスケッチブックを取り出しデッサンを始めた

  

"カリ...カリ"

 

室内はその音と互いの呼吸の音のみ

 

そして時折わたしが消しゴムをかける音

  

そののちにあなたが夕食の支度を静かに準備する音も聴こえてきた

 

"カタ...カタ"

 

無言でデッサンをするわたしに氣を配りながら...

  

そして...

 

食卓を二人で囲むのが最後となることを知っているあなたは...

 

互いが好みとする"大豆ミートブロック唐揚げ"のスタンバイをしていた

  

そんな互いが手掛ける作品は着々と...

 

確実に創造へ向け進んでいった

 

そして居間のピクチャーウィンドーが暗闇に包まれたその時

 

わたしは名峰のデッサンを完成させた

 

そのほぼ同じタイミングで...

 

あなたも夕食のスタンバイを完了させた

 

互いに言葉なく...

 

互いに歩みより...

 

互いの温もりを確かめるかのごとく

 

そっとよりそう

 

そしてわたしはあなたから静かに離れると...

 

完成させた"amour éternel-永遠の恋人-"の姿のページを開いたまま...あなたへ手渡した

 

あなたはこわれものに触れるかのように...そっとスケッチブックを手に取った

 

わたしはその様子をみつめながら...

 

込み上げてくるモノを必死に抑えていた

 

そしてあなたは...

 

スケッチブックを自身の胸に抱きしめながら...静かに涙を流していた

 

そんな切ないほど美しい姿のあなたを抱きしめたかった

 

しかし身体はピクリとも動かなかった

 

そんなことを知らないあなたはただただ...

 

溢れてくる涙を拭うことなく...

 

スケッチブックを大切に抱きしめていた

 

そしてしばらくしたのちあなたは...

 

ゆっくりと顔を上げ...

 

眼を真っ赤にさせながら"すばらしい作品を観せていただき...ありがとうございます"と言いながら...

 

抱きしめていたスケッチブックをわたしにそっと手渡した瞬間...

 

ピクリとも動かなかったわたしの身体は...

 

セキを切ったかのようにあなたに向け動き出す

 

受け取ったスケッチブックを放り投げ...

 

磁石のように引き合い...

 

互いに力の限り抱きしめあう

 

そしてわたしたちは最後となる作品創造に向け...

 

互いに全てを出し尽くすかの如く

 

互いを激しく求め合った

 

そして互いのピークが訪れる直前...

 

自身のこれまでの生き様を全て表現すべく...

 

"いのちをあずける"

 

そうあなたへ伝えたのち...

 

あなたの美しい花畑によろこびの花のタネを広げた

 

ほぼ同時によろこびに満ちたあなたは

 

"花のタネをありがとう..."

 

"大切にする..."

 

わたしが息も絶え絶えで頷くと...あなたは瞬間意識を失った

 

そして静かな空間となった時...

 

意識が戻ったあなたは...わたしの全てにふれながら"ずっとこうしていたい"と甘く囁く

 

わたしは言葉なくあなたを抱きしめながら...

 

あなたが深く眠りに落ちるのを

 

迫り来る次なる旅路を思いながら待っていた

 

そして今...

 

居間のピクチャーウィンドーからうかがえる朝靄かかる空間からあなたが眠る部屋へと戻り...

 

しあわせそうな表情で眠るあなたの愛おしい姿を...言葉なくみつめている

 

そしてわたしはこのあと...

 

完成した手編みのポンチョと思い出のスケッチブックをわたしが眠っていた場所へそっと置きながら...

 

心の中で"ありがとう"と

 

あなたの寝顔を心に留めながらつぶやく

 

支度を済ませていたわたしは静かに寝室のドアを閉め...

 

そして朝靄の居間のピクチャーウィンドーを観ながらリュックをしょい込み...

 

玄関ホールのあなたの写真作品を名残惜しくみつめながらも背を向け...

 

ともに旅してきた靴を履き...

 

鍵がかかっていた玄関のドアを開け...

 

静かにドアを閉めたのち...

 

溢れる涙をそのままに...

 

くるりと背を向け...

 

本土最北端の街にある...

 

最北の名峰がうかがえる...

 

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陽子

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